Last updated: 07/06/18


15    夜中に犬に起こった奇妙な事件 マーク・ハットン 早川書房
H16年9月20日(月)
 
この本は 児童書であり ミステリーです。
私は 元々 ミステリーは大好きですが
雑誌の新刊紹介コーナーで この本を見たとき 
なぜすぐ読みたいと思ったか。
 
それは この本の主人公 そして 物語の語り手である15歳のクリストファーは
「自閉症」(アスペルガー症候群)だと書いてあったからです。
 
私の 現在の最大の関心事のひとつが
「自閉症の人の独特の世界」に生きているといわれる 
とら君とみけ君は どんな思いで 日々を過ごしているのか。
とら君や みけ君から見た 「自閉症ではない人たちの世界」は 
どう見えているのか。
なのです。
 
ですが とら君もみけ君も それらについて
言葉で 表現することはできません。
 
なので 私は 高機能やアスペルガーと言われている人たちが 
書かれたものや 語られた言葉を 捜しては読んでいます。
 
私にとっては 高機能やアスペルガーの人たちは 
自らの世界を 思いを語る言葉を持っている
自閉症の人たちだからなのです。
 
余談ですが…
この点については 私と違うご意見・お考えの方も 
たくさんいらっしゃるのは 承知しております。
実際 私が 高機能やアスペルガーの人の勉強会に行ったとき 
他の親御さんたちから
「なんで 知的しょうがいの子達の親である
あなたが この会に来ているのか」とか
「うちの子とあなたの子達を 一緒にしないで欲しい」とか。
まぁ 本当は もっと直截なココロナイ言い方で 
言われた経験もありますので。
苦笑
 
まっ それは さておき。
本に話しを戻しますと
IQが 非常に高く
数学や物理では 天才的な才能を発揮するクリストファーですが
他人の表情を理解できない。 
怒鳴られたり体を触られたりすると
パニックをおこす。
決まった色の食べ物しか口にできない。
視覚から入る情報を 自分なりに 選別できない。
など 大変な生きにくさも抱えています。
 
私は この本を読んで
「なるほど。
自閉症の人は なんて 大変な生きにくさを抱えているのだろうか。
私たちの目に映っている世界と 
自閉症の人の目に映っている世界は これほど違うものなのか」 
と 大変勉強になったのですが…
 
実は 今まで この本を積極的に 人にお薦めしようと思わなかったのは 
この本の描写にあります。
 
冷たいとも 突き放しているとも違う
私には大変クールで淡々とした描写に思えましたが。
 
お国柄の違いでしょうか。
クリストファー自身についても 彼を取り巻く 家族やご近所の人の 
気持ち・態度など まさに シビアです。
 
オブラートに包んだような 生暖かい描写ではありません。
その分 私は リアリティーを感じましたが。
 
自閉症の子たちの親である私も 正直 読むのがつらくて 
時々 本を置いて 呼吸を整えたくらいです。
 
それでも 最後まで 読み終えたら
何かを 乗り越えた後のような 
カタルシスさえ伴ったラストが待っているのですが。
 
それだって 決して いわゆるハッピーエンドとは 違いますしね。
 
だから こうして 薦めておいてこんなことを書くのも変ですが。
 
この本を読まれるときは かなりの覚悟を決めて 読んでください。
そして 読むときは 時間も体力も気力もたっぷりあるときに 
読んでください。
 
つらくなって 読むのを中断してしまったら
それこそ つらい思いだけが残ってしまいますから。
 
読むなら あのラストまで。
そうしたら きっと 何かが得られる本であることは 保証いたします。
 
尚 作者のマーク・ハットン氏は 自閉症ではないそうです。
彼は この本の前にも 何冊か児童書を出版している イギリスでは かなり有名な
作家のようです。
主人公のクリストファーは 作者の知り合いのアスペルガーの少年を 
モデルにしたそうです。
 
 
 
 
 



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